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記憶の中の朱色のガーベラ [その他色々]

あれは小学校5年せいだったか。
ある日担任から急に呼ばれて,「次の授業は出なくていいから保健室にいってらっしゃい。」と理由も何もなくいわれたものの,素直に保健室にいったことがあった。

保健室では養護教諭がひとりで私が来るのを待っていた。
その後どんな話をしたかあまり覚えていないが,じきに小さな本を取り出して見えた文字をいってみなさいと言った。ページを繰るたびその文字が分かるものもあれば分からないものもあり,それを一つ一つ最後のページまでやっていった。

この日が来るまでに,何度か同じことはやっていた。
一度は眼科医に母に連れて行かれ,見えた文字を言うというものではなく,色のつながる点線を追っていくような検査をされたこともあった。
そんな検査を受けた後でも,私は私の体のどこかに人と違うものがあるなんて,微塵も思わずにその時を迎えていた。

その場には私と養護教諭しかいなかった。
父も,母も,担任もいなかった。たった一人で,その後の養護教諭の話を聞いた。

この検査が,色の見分けが正確にできるかどうかを見分けるものであること。
私の目はその見分けができないものだということ。
将来の仕事についても,就くことができないものがあるということ。
そして最後に,机の脇に活けてあったガーベラの花を指差して私に色を聞いた。
私は「朱色です。」と答えた。
「へぇ,この色は判るのね。」と養護教諭は言った。

保健室から自分の教室に帰るまで,この重たい話をどう思い直していたか,もう覚えていない。ただ今でもしっかり記憶に残っているのは鮮やかなガーベラの色と,養護教諭の言葉だけ。

その日から30年以上経過して,今日色識別補助用のメガネを買いました。
ColorViewという商品ですが,これで一般的な色覚の人と同じように見えるわけではありません。今まで困っていた色の見分けが少しやりやすくなったというだけです。赤い色は暗い色ではなく鮮やかな色だ,ということを実感できるだけの話です。

とはいえ,それができ,わかるということの安心感。
これに10万近い金額を払うことに抵抗もありましたが,今までふとした度に感じてきたコンプレックスを少しでもやわらげてくれるなら,致し方ない出費かな,とも思います。

 実際に自分の手にできる日まであと1週間くらい。早く来ないかな。


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